第26章 兵長のおまじない
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「ふむ…」
団長は口元に手を当てて「エレン」を見つめた。
彼は、巨人のうなじから出てきた時から朦朧とした様子だったが、黒髪の女性兵士に抱えられて壁を登っている間に気を失ってしまったらしかった。
だらりと力なく横たわる身体。衣服が破れてあらわになった腕や足は、まるでひどい火傷を負ったように赤くただれていて、巨人が発するのに似た蒸気を出し続けていた。
それは顔も同じことで、額から目元にかけて皮膚が無くなり筋肉がむき出しになったような状態になっていた。
私は、横たわる彼のことをまじまじと見つめた。
彼は…人間?なぜ、巨人のうなじから出てきたの?巨人の身体とくっついてしまっていたということは、食べられた訳では無いということなのか?
わからないことだらけだ。
気が付けばもう、辺りは薄暗くなってきている。
私がエルヴィン団長に報告し終えるのとほぼ同時に、ピクシス司令の命令を受けた駐屯兵団の兵士がやって来て、「エレン」の身体を厳重に拘束し始めた。
どう見ても、医務室に連れて行く訳ではなさそうだった。
「団長、彼はどうなるのですか?」
両手両足に枷がつけられ、身体を担架に縛り付けられた彼の姿を見て、私は思わずエルヴィン団長に尋ねた。
「それを、これから決めることになるだろう」
いつにも増して冷静な声で言った団長の顔を見上げると、空色の大きな瞳が瞬きもせずに「エレン」を見つめていたのだった。