第26章 兵長のおまじない
「死守せよっ!!エレンを扉まで守れっ!!」
兵士たちが口々に叫んでいるのが聞こえる。とても落ち着いて考えられるような状況では無かったけれど、私は瞬間的に思った。
誰を死守するって言ってるの?エレンって誰?扉まで、ってあの大穴までってこと??
その時視線の先に、明らかに他の巨人とは違う個体が、こちらに向かって歩いて来ているのに気がついた。
その巨人は、自分の身体よりも大きそうな岩を抱えて歩いていた。そう、まるで…運んでいるかのように。
「何だあの巨人は?!」
「死守するって、まさかあの大岩を持った巨人を死守するって意味?!!」
先輩方が口々に叫ぶ。
「あぁっ!!何故だ?!なぜ他の奴らも地面を走っている?!」
もはや誰が上げた声なのか分からないくらい、状況は混乱状態だったが、私は声のした方を見た。
そして目に飛び込んできたのは、巨人の口の中に押し込まれていくイアン班長の姿だった。
「イ、イアン班長―――っ!!!」
私は叫び声を上げて、思わず手を伸ばした。
とても不思議な感覚が全身を包み、全ての動きがまるでスローモーションになったように感じた。
ゆっくりと閉まっていく巨人の口。その歯列の間で、目を見開いたイアン班長と目が合ったような気がした。
ブツン、とまるで花が切り落とされるかのように簡単に、イアン班長の首は切断され地面へと落下していった。