第26章 兵長のおまじない
その光景を見て、私は手綱を握る手を、ぎゅうっと握り締める。
5年前の光景がまるで濁流のように頭の中に流れ込んできて、ドクッドクッと心臓が大きく脈打ち始めた。
降ってきた大岩に押しつぶされた弟と母から流れ出した大量の血液や、巨人の大きな口で引き裂かれた父の身体、開拓地でやせ細り死んでいった兄の土色の顔が、今目の前にあるかのようにフラッシュバックした。
特殊な記憶力のせいで、あの時の光景はいつだって頭にある。だけど、こんなに生々しく思い出すことは少ない。
私の両目からはいつの間にか涙が流れ出していて、頬を伝って次々と流れ落ちていく水滴が、走る馬の振動でパラパラと辺りにまき散らされていった。
「ラウラ!!しっかりしろっ!!」
僅かに後方を走っていたリヴァイ兵長が私の異変に気づき、すぐさま馬を寄せて大声で呼び掛けてくれた。
その声に、私はビクッと身体を揺らして意識を引き戻される。
「は、はいっ!!すみませんっ!!」
私は上着の袖で慌てて涙を拭った。
(そうだ、今は泣いている場合じゃない。…あの時の惨劇を繰り返させはしない!!ただ泣いて逃げ惑う事しか出来なかったあの頃とは違う!!私は兵士になったのだから!!)
私は前方の大穴を睨みつけると、再度手綱をしっかりと握り直した。