第26章 兵長のおまじない
そんな願いを繰り返し思いながら、どれくらいの距離を走っただろう。
すでに日が傾きかけてきた頃、前方にやっとウォール・ローゼの白い壁の頂上が見えてきた。
だがそれを視界に捉えた瞬間、兵士達はみな一様に、エルヴィン団長の予想はやはり正しかったのだということを痛感せざるを得なかったのだった。
壁の向こう側からは、いく筋もの黒い煙が立ち上っていた。あの煙の立ち方はきっと、建物が燃えているのだろう。
「総員!!壁に到着し次第、直ちに戦闘態勢に移れ!!おそらく壁は破壊され、壁中には多数の巨人が入り込んでいる!!」
エルヴィン団長のよく通る声で言われた言葉は、兵士たち全員が抱いていた「どうか無事であってほしい」という淡い願いを、最後の一片まで粉々に打ち砕いたのだった。
「なお、ハンジ班は先遣隊とする!いち早く状況把握に務めてくれ!!リヴァイ班は援護を頼む!!」
「了解っ!!」
私達の二班は一斉に返事をすると、陣形から離脱して馬の走る速度を上げたのだった。
次第と壁に近づいて行くにつれて、風に流されて濃く匂ってくるモノの焼けるような匂い。
建物の焼ける臭い、硝煙の臭い、そしておそらく巨人の臭い。
地平線が切れて、ようやくその全容を現した壁の大門には、5年前のシガンシナ区襲撃の際に開けられたものと同じような大穴が開いていた。数時間前までの荘厳な佇まいは、跡形もなかった。