第26章 兵長のおまじない
私はケイジさんとニファさんの補佐をしながら戦った。
幸いにしてこの辺りにいるのは通常種ばかりだったので、私も我を忘れて絵を描き始めることはなかった。
討伐された巨人の蒸気が立ち上る中、何とか無事に戦闘を終えて地面へと降り立った私の視線の先には、腹部から大量の出血をして倒れている兵士と、その彼を両側から挟むようにして膝をついているリヴァイ兵長とぺトラの姿があった。
彼らのすぐ横には、うなじを大きく削ぎ取られた巨人の死体が転がっており、もうもうと白い煙を上げている。それだけで状況は十分すぎるほど理解できた。
石畳にドロリと広がる真っ赤な血が目に飛び込んできて、私はしばし立ち尽くした。
超大型巨人の襲撃時に、弟のエリクと母さんが大岩に潰された光景が頭をよぎる。二人から流れ出した血の、なんて鮮やかだったことか…。
仲間の死を目の当たりにするということは、もちろん今までにだって何度もあった。
すぐ横で、巨人に頭をかじり取られる姿を見たことだってある。かじられた部分から、大量の血が吹き出す様も…。何度経験しようとも、それに慣れることはきっとできない。
そして、私はその場の光景を頭に焼き付けられる(…この場合は「焼き付いてしまう」と言った方がいいだろうか)、特殊な能力を持っている。
その場のどんなに些細なことであっても瞬時に記憶してしまうのだ。一度見たら、まるで今その場にいるかのように、その光景を何度も頭の中で見ることができる。
絵を描く時には役立つこともあるけれど、残酷な光景の記憶ばかりが増えていくほどに、こんな能力無ければ良かったのにと思うことが増えた。
(あぁ、まただ)
巨人。血。死。
指先から全身が冷えていくような感覚に包まれるのを感じる。