第26章 兵長のおまじない
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壁を出発してから数時間、ドドドッと無数の馬の足音と、はためくマントの音だけが辺りに響く。
私は、目の前を走る先輩たちの背中を見つめながら、ただひたすらに馬を走らせていた。
だけど、往路ではない。これは復路だ。
兵站拠点設営のために今朝方、壁を出発してきたばかりの調査兵団だったけれど、昼を過ぎた今、すでに壁に向けて引き返している状況だった。
「総員、早急に帰還せよ!!」
そう、エルヴィン団長の号令が響いたのは、つい先ほどのことだった。
本日の壁外調査は、天候にも恵まれて視界が良好だったせいもあり、巨人との遭遇は少なく当初は順調に進んでいた。
だが、目的地の一つである街で補給物資の積み下ろし作業をしていた時に、突如として複数の巨人達に襲われた。
積み下ろし班が作業をする間は、街の四方に見張り兵を立てて巨人の襲撃に備えていたのだが、大量の巨人達の急襲により、あっけなくその包囲網は突破されてしまったのだった。
私は市街地にて物資の積み下ろし作業を担当していたのだが、真っ青な顔をした伝令兵士からの急報によって、巨人の出現を知った。
ハンジ分隊長の指示で班員達はすぐさま戦闘に加わったが、すでに街のあちこちに巨人が入り込んでしまっていた。
戦況から見て、被害は決して少なくないだろうということが分かった。