第26章 兵長のおまじない
「うるせぇガキ共め…」
顔をしかめた兵長に、すかさずハンジ分隊長が言う。
「あの子達の羨望の眼差しも…あなたの潔癖すぎる性格を知れば幻滅するだろうね」
「知ったことか。俺は俺だ。世間の勝手なイメージを押し付けるんじゃねぇ」
兵長はチラリと私の方を振り返った。
「なぁラウラ、お前もそう思うだろ?」
「え!は、はぁ…」
唐突に話を振られて、私は少し面食らう。こんな風に声をかけられると、以前にも増して兵長との距離が縮まったように感じる。
私は、まだこちらを熱のこもった目で見つめている少年たちの姿をちょっと見てから、兵長に視線を戻した。
「確かに兵長は潔癖ですが…でも、だからと言って幻滅はしないかもしれませんね。現に私たちはみんな兵長が大好きですから」
「そうですよ、兵長!」
「俺たちみんな、兵長のこと大好きっす!」
私に続いて、ペトラとオルオも興奮気味に声を張り上げた。オルオの首には、今日も例のクラバットがはためいている。
「チッ…うるせぇガキ共がここにもいやがった…。舌を噛む前にさっさと口を閉じて、前を向け」
プイ、と前を向いてしまった兵長に、隣にいるハンジ分隊長は笑いをこらえながら私達の方を見た。今にも「プププ」という笑い声が聞こえてきそうな顔をして、兵長のことを指さしながら。
それを見て、私たちは顔を見合わせて笑った。
「開門ーっ!」
エルヴィン団長の号令と共に、ゴゴゴッと音を立てて大門が開いていく。
一斉に壁外に飛び出した私達は、本日の拠点設営地点を目指して馬を走らせたのだった。