第24章 あなたの横顔は
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二日酔いで盛大に吐いているラウラの背中をさすりながら、私は彼女が抱え込んでいるバケツをじっと見つめていた。リヴァイ兵長が、ラウラに渡したもの。
「ごめんね…ペトラ…うぷっ」
本当に申し訳なさそうに謝ってくるラウラの顔は、血の気が引いて真っ白になっていて、もともと整った顔立ちの彼女を、まるで陶器でできた人形のように見せていた。
白く滑らかな肌に、吸い込まれるようなコバルトブルーの瞳。女の私から見ても、ドキッとするくらい綺麗だ。
その顔を見ながら、私はあの日のことを思い出していた。壁外調査から帰ってきた夜のことだ。
あの日の壁外調査で、ラウラはいつも以上に集中していた様だった。
絵を描いている時にいつも浮かべている不気味な笑みは普段よりずっと迫力があって、すっかり見慣れていたはずなのに私は背筋がゾッとした。
でも、その常軌を逸した姿を見るたびに思う。あぁ、この子は天才なんだって。
いつものラウラに様子が戻ったのは壁内に戻ってきてからで、こんなに長い時間「あっち側」に行っていることは珍しかった。いつもならもっと早い段階で「こっち」に戻ってくるのに。
だから、予感がした。もしかしたら今日は夜通し絵を描いてしまうのではないかと。
ラウラは絵に集中すると周りが見えなくなってしまうし、自分の身体のことも頭から抜け落ちてしまう。
壁外調査から帰ってきてヘトヘトなはずなのに、それに気がつかないで絵を描き続けてしまう。そんな事をしていたら、いつかきっと身体を壊してしまうだろう。