第23章 成果
自身の体感的にはものすごく長い時間に思えたが、実際にはほんの数分の事だったのだろう。絵を見つめていた総統が顔を上げた。
「実に素晴らしいよラウラ」
そう言って総統は、相好を崩した。
その瞬間、私は張りつめていた緊張が一気に弛んで、本当に、心の底から安堵したのだった。
総統はその後しばらくの時間をかけて、絵に描かれている時の状況などについて、様々な質問をした。どの絵も熱心に見てくれて、感想も言ってくれた。
総統が今手に取っている絵は、巨人と兵士が戦っている光景を描いたものだ。
あまりに生々しすぎるのもどうかと思ったが、それでもあえて兵士が食われる光景もありのまま描いた。変にオブラートに包んで描いては依頼内容と違ってしまうからだ。
それはきっと、総統もお望みにならないし、エルヴィン団長が考えている「壁外の様子を正確に理解してもらう」ことにもつながらないと思ったからだ。
もちろん不安もあった。
実を言うと、私の絵はあまりにも直截に場面を描きすぎて、その残酷さ故に、絵を見て気分を悪くする人もいるからだった。
巨人に貪り食われる兵士たちの顔は、もちろん微妙に変えている。
だけど、場面と状況から「誰が」食われているのかを察してしまう兵士もいた。絵を見たことが引き金になって、仲間が死んだ時のショックがフラッシュバックしてしまうのだ。
そういう兵士はもしかしたら多いのかもしれない。
だけどそういった話はあまり私の耳には直接入ってこない。きっとハンジ分隊長やエルヴィン団長、リヴァイ兵長が遠ざけてくれているのだろう。
「…残酷だ。だが、これが現実だ。彼らの死を一つも無駄にすることなく、私たちは学び、進んでいかなければならない」
総統の手元をじっと見つめていた私は、その言葉を聞いて思わず総統の顔をまっすぐに見つめた。そのお顔は、真剣さで厳しく引き締まっていた。
「君の絵は何よりも重要な資料のひとつだ。これからもどうか、その力を我々に貸してもらいたい」
「はっ!」
身に余る言葉をいただいて、私は全身が震えるような気持ちがした。バッと敬礼をすれば、総統は大きく頷く。
「そのためにも、決して死ぬなよ?ラウラ」
そう言って少し心配そうな表情をした総統に、私は頷いたのだった。