第3章 あの日
そんな兄の身体を心配して、私は何とか兄を休ませようとして何度も説得を試みた。兄に対しても、管理者である憲兵に対しても。
だけど、私のちっぽけな力などでは何も変えることはできなくて、状況はそのままだった。
変わっていくのは兄の体調の悪さだけで、もともと細身だった身体は、まるで骸骨のように痩せていった。
せめて少しでも兄の負担を減らそうと、私は兄の仕事をこっそり手伝おうとした。
だがその度に兄は、父にそっくりなあの顔で、優しく私の手を押し返すのだった。
「俺は大丈夫だから。ラウラは無理をするな」と。
でも、どう見たって無理をしているのは兄の方だった。
なのにその顔を見てしまうと私は何も言えなくなって、涙が止まらなくなるのだった。父の面影を思い出して泣き、兄の優しさを思って泣き、自分の不甲斐なさを呪って泣く。
開拓地に移ってきてから3ヶ月ほど経った頃、ついに兄が倒れた。
倒れた後の兄は、どう頑張ってみても起き上がることができないほど悪い状態となり、日中、皆が畑仕事に出ている間は、誰もいない宿舎で眠っているようになった。
およそ人が住むような建物ではない、納屋のようなほったて小屋だったから、昼夜問わずに冷たい風が吹き込んできていた。
夜は人がたくさんいるから、中央の方にいれば風も遮られるし、人間がたくさんいるというだけで僅かながら温かいのだが、日中に一人でじっとしていたのでは、まさに身を切られるような寒さであったと思う。
私は兄にバレないように、こっそりと自分の食事を兄の食事に加えていた。気づかれないように、本当に僅かな量を。
でも、気づかれる心配はないかもしれないけど、そんな僅かな量を加えたところで、一体どれほどの栄養になるというのだろう。ほとんどゼロにも近いくらいしか、意味はないのかもしれない。
だけど私はそれを続けた。続けるしかなかった。私が兄のためにできることは、もうそんなことくらいしか残っていなかったから。
しかし私のそんな努力も虚しく、兄の身体は日増しに衰えていったのだった。