第3章 あの日
避難所で数日過ごした後に、私たちは開拓地へと送られた。
冬に向けて無常にも表情を変えてゆく季節の中で、初めて経験する慣れない農作業は、とても辛かった。
私たちはもっぱら畑の土を掘り返すことを指示されたが、初めて持つクワは思ったよりも重くて、それを毎日毎日、一日中振り回していたら、両手は豆だらけになってしまった。
街育ちの私たちは、こんな作業をしたことはなかったからだ。
農作業は毎日朝から晩まで続いたけれど、農作業から宿舎に帰ってくると、少しの合間を見つけては相変わらず私は絵を描いていた。
だが鉛筆も紙も今は限られているせいで、前のようにたくさん描くことはできない。今の私は、家から持ち出すことができたスケッチブックが一冊と、鉛筆を三本しか持っていなかったから。
チビた鉛筆を頑張って持つと、農作業でできた豆に当たって、ズキズキと痛むのだった。
そんな毎日を過ごしていたら、あっという間に秋は終わり、冬がやって来た。
冬の朝は、吐く息は真っ白に染まり、指先がちぎれるようにかじかんだ。
食べるものもろくに無いせいで、身体は常にエネルギー不足でひんやりとして指の節々は紫色に変色していた。
兄は、もともとひいていた風邪が悪化して、ずっと咳が止まらなくなっていた。医者に見せた訳ではないから正確なことは分からないけれど、多分熱もずっと続いていたんだと思う。
それでも兄は、そんな身体をおして、過酷な農作業に休まず取り組んだ。「働かざるもの食うべからず」という残酷な言葉が、兄の体を突き動かしていた。
兄の顔色は、日増しに悪くなっていく一方だった。