第3章 あの日
しばらくすると船上は、足の踏み場もないほど人でいっぱいになった。
発着所にかけられた渡し板が外されると、詰め寄せた人々から悲鳴のような声が上がる。
「そんな!乗せてくれ!詰めればもっと乗れるだろう!?」
「せめて子どもだけでも!!」
私は、自分が船に乗れていることが申し訳なくて、でもどうしようもなくて、ぎゅっと目をつぶって顔を伏せた。
ザザァ、と船が水を切って動き始めた。
「待ってくれ!」
岸にいた誰かが船に飛び移ろうとして、ガツンと船の手すりにぶつかって川に落ちた。ドボン、ドボンという音が、いくつも上がる。
その時だった。
船上にいるのにズンズンという地響きを感じて、私は顔を上げて辺りを見回した。この地響きはすごく嫌な感じがする。
それがどんどん近づいてきたかと思った次の瞬間、内門の壁がまるで弾けるようにして飛び散った。
飛び散る破片の向こうから、鎧をまとったような頑強そうな巨人が飛び込んできて、大きく割れた口から火炎のようなものを吐くのがはっきりと見えた。
私は思わず、隣にいる兄にすがりついた。
近くにいた誰かが、震える声で言うのが聞こえてくる。
「おしまいだ…また…人類は…巨人に食い尽くされる…」
兄も、何も言わずに私の身体を抱きしめると、壁を破った巨人の姿を呆然と見つめていた。
この悪夢のような出来事は、数日のうちに壁全土へと知れ渡ったのだった。