第20章 阿呆
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それが、数ヵ月前の話だ。
「ラウラっ!!ついに完成したよっ!」
ゲルガーさんたちに連れられて酒場に行った翌日、二日酔いで頭がガンガンと割れそうになっている私に、まるでこん棒のような大声を振り下ろしてきたのは、やはりハンジ分隊長だった。
その強烈な一撃で、私の頭はまるで真っ二つに割れた果物みたいになった。
「も、もしかして、アレですか?」
私は飛び散りそうになる頭を何とか抱え込んで、思い当たることを言ってみた。
そうしたらそれは正解だったようで、分隊長は、もう形容しがたいほど嬉しそうな顔をして一冊の本を高く掲げてみせた。
「そう!アレだ!訓練兵団で使用する教本が、ついに完成したんだ!」
「!!」
二日酔いの痛みなんて瞬時にどこかへ吹き飛んでしまって、私も興奮して声を上げた。
この数ヵ月、教本のための挿絵の制作に尽力してきた。
ハンジ分隊長たちのまとめた論文を読み込み、どんな絵や図なら分かりやすいかと散々議論を重ねて描き上げたものだ。
それはもう、一つの作品と言っても過言ではないほどの出来栄えだったと思う。
ハンジ分隊長ほどではないにしても、私もかなり寝食の時間を削って取り組んでいたので、たまにリヴァイ兵長から「今日はもう寝ろ」と注意されたことも何度かあるほどだった。
入浴は欠かさずにしていたけど、どうも食事と睡眠を忘れてしまう。
兵長が心配してくださっている通り、無理をしすぎて体調を崩してしまっては元も子もないのだが、「もうこれで人生が終わってもいい」と思うほどに、私は挿絵の制作に熱意を注いでいた。
だって、これからの時代を担って兵士を目指す若者たちが、巨人について学ぶ最初の文献なのだ。その責任はとてつもなく大きい。
そんな文献の制作の一端を担わせてもらえるのだ。これほど光栄なことはないし、…できることなら、ライデンにも見てほしかった。
きっと彼なら、まるで自分のことのように喜んでくれたに違いない。それは、父さんたちやライデンのご両親であっても、同じだったと思う。