第20章 阿呆
唐突に言われた言葉の意味を理解するのに、私の脳ミソは少しばかり時間を要した。
キョトンとしている私の肩に、ポンと分隊長の手が置かれる。
「君も数年前まで使っていた、あの教本だよ。巨人研究が進んで、この度大幅な改訂をすることが決まったんだ。
それに合わせて、古い挿絵も一新しようという訳だ。そこで、ラウラにその制作を担当してもらいたい」
「…!!そ、そんな大役を私に…?!」
「あぁ!現時点で、君以上の適任者はいない!むしろ、未だかつていなかったんだ。実際に巨人の姿を見た画家というのは!」
画家、と言われて恐縮しない訳ではなかったが、思えば私も実家にいるときにはすでに「画家」として絵を販売したりしていたから、対外的にそう言ってもあながち間違いではないのかもしれない。
何か資格がある訳ではないから、周囲の人が認めてくれて初めてそう名乗れるのだが。
分隊長の頬は少し上気して赤くなっていた。メガネの奥の大きな瞳が、まるで宝石のようにキラキラと輝いていて、その瞳の中に私の姿が写っているのが見える。
気が付けば私は敬礼をしていた。
左胸に置いた手に、ドクドクと普段よりもずっと早くなった心臓の鼓動が伝わってくる。
「ご期待に添えるよう、頑張りますっ!!」
興奮と歓喜と、そして同時に不安もあったけれど、私は大きな声で返事をした。それを聞いて、ハンジ分隊長とモブリット副長は優しく微笑んだのだった。