第19章 酒
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ナナバさんたちが調査兵団の宿舎に戻ってきたのは、消灯時間ギリギリになってからのことだった。
さすがに女子寮までは背負っていけないと、私のことを今度はナナバさんが背負うことになった。
「ホントだ、かっるいなぁ~!立体機動の姿を見た時から思っていたけど、想像以上だ」
「だろ?!」
玄関ホールでそんなやり取りをしていたナナバさんとゲルガーさんが、「それじゃ」と別れようとした時、ホールの脇にある小さな待合室でゆらりと灯りが揺れて小柄な男性兵士が部屋から出てきた。
「あれ、リヴァイ、こんな時間にどうしたの?」
待合室から出てきたのは、リヴァイ兵長だった。手元の小さなランプが兵長の顔を照らし出していて、眉間に寄ったシワがよく見えた。
「…別に、なんでもねぇ。ところで、そいつのそのザマは何だ?」
じっ、と兵長が見つめる先には、ナナバさんの背中でスヤスヤと眠りこけている私の姿があった。
「あぁ、俺たち街まで飲みに行ってたんだ。ラウラの成人祝いに」
「成人?…まだまだガキに見えるがな」
そう言って兵長は、スタスタと歩き始めた。その背中を追いかけるようにして、ナナバさんが声をかける。
「もしかして、ラウラのことを待っていたのかい?」
兵長がいつも私のアトリエに入り浸っていることを知っているナナバさんは、半分カマをかけるような気持ちで聞いたそうだ。
すると意外なことに、足を止めて半身だけ振り返った兵長はあっさりと言った。
「そうだ。今日はアトリエにいやがらねぇから、どうしたのかと思ったが…仕方のねぇヤツだ」
それだけ言うと、兵長はフイッと半身を戻して、暗い廊下に小さなランプの灯りを揺らしながら行ってしまった。