第19章 酒
その去り際に兵長が見せた表情に、ナナバさんとゲルガーさんは思わず顔を見合わせた。
「…ゲルガー、今の見たかい?」
「…あぁ、見た。なぁ俺、まだ酔っ払ってるのか?」
「酔っ払ってることは酔っ払ってるだろうけど、今のは私も見たから現実のものだよ」
「…リヴァイって、あんな顔して笑うことあるんだな」
「あぁ、彼とも長い付き合いになったけど、あんなに優しい笑顔を見せたのは初めてだね」
「…こえぇー…何の前触れだよ」
ブルッと身体を震わせたゲルガーさんに、ナナバさんは呆れたように肩を落とした。
「これだからゲルガーは、いつまでも子どもっぽくて困る。前触れ、と言うのなら、もうアレしかないだろ」
「アレ?」
首をかしげるゲルガーさんに、ナナバさんはやれやれと顔を振った。
「もう寝るよゲルガー。おやすみ」
そう言ってナナバさんは、私を背負って女子寮へと続く廊下を歩き始めた。
「あっ、おい!まだ話が途中だろー!アレってなんだよ!?」
「ゲルガー、うるさい。ラウラが起きちゃうだろ」
ぴしゃりと言われて、ゲルガーさんはしぶしぶ男子寮へと帰っていったのだった。
「アレって何だよ?」とまだブツブツ言いながら。