第19章 酒
「ゲルガーさんっ!私の話、聞いてますかっ!?」
ばんっ、とテーブル越しに乗り出してきた私に、ゲルガーさんは冷や汗を流しながらコクコクと頷いた。
「お、おう、聞いてるぜ!聞いてる!」
「まずいよゲルガー…。私たちは開けちゃいけないモノを開けてしまったらしい…」
その後もしばらく、私の絵画談義は続いたらしい。
すっかり夜も遅くなった頃、私はついに眠気に負けてテーブルに突っ伏して寝始めた。
やっと力尽きた私を見て、ナナバさんとゲルガーさんは心の底から安堵したらしい。後日その話を聞いて、本当に申し訳なさでいたたまれなくなった。私って、酒乱だったのか…。
「ゲルガーさんよぉ、そのお嬢ちゃんに酒はちっとばかし早かったんじゃねぇのか?」
兵士になったほうがいいのではないか?と思うほど筋骨隆々の男性が親しげに声をかけてきて、ゲルガーさんも慣れた様子で返事をした。ここは行きつけの酒場なので、客の中に顔なじみがたくさんいるそうだ。
「何言ってんだ!こいつは立派に成人してる…が、やはり少し早かったかもしれねぇな…」
そう言ってゲルガーさんは、テーブルに突っ伏して寝息を立てている私のことを、苦笑いしながら見下ろしたのだった。
結局、どんなに声をかけても身体を揺さぶっても起きない私の事を、ゲルガーさんが背負って帰ることになった。
「軽っ!こいつちゃんと食ってんのか?!」
私の身体を担ぎ上げて、ゲルガーさんが言う。まるで手荷物のようにヒョイッと背中におぶることができたらしい。
「心配ないみたいだよ、ゲルガー」
そう言ってナナバさんが、会計の紙をゲルガーさんに手渡した。
その合計金額を見て、ゲルガーさんは目を丸くする。
「ぬあぁっ!!いつの間にこんなに食ったんだよ?!」
結局、ゲルガーさんの手持ちだけではお金が足りなくて、小突かれながらもナナバさんに少し出してもらって、何とかお会計を済ませたとのことだった。
…本当に申し訳なくて、顔から火が出そうだ。後で何かお詫びをしなければ。