第19章 酒
ナナバさんも、「怖い顔」であることは否定しなかったけど「好き」と言ってくれたので、とりあえず私のテンションは急上昇した。
大好きなナナバさんにそう言ってもらえるなら、もうそれだけでいいや。
「待て!俺だって嫌いとは言ってねぇぞ!」
ナナバさんに叩かれたうなじをさすりながら、ゲルガーさんが身を乗り出して言う。
「でもな、大丈夫さ。心配するこたぁねぇ。訓練兵時代の3年間、苦楽を共にした奴らとの絆は特別なものだ。お前が今どう感じているかとは別でな。いつかきっと分かる」
「…そうでしょうか?」
「そうだ!俺が言うんだから間違いない!」
ドンッ、と飲み干したジョッキを勢いよくテーブルに置いて、ゲルガーさんが声をあげる。
…ちょっと目が据わってきているように見えるけど…お酒を飲むとみんなこんな風になるのかな?でも、ナナバさんはあまり変わっていないように見えるけど…。
「そういうものなのかな」
私はいつの間にか握り締めていたグラスを持ち上げて、オレンジ色の液体をグイッを飲み干したのだった。
〇
その後の私の記憶は定かではない。
後日、ナナバさんから聞いた話によると、絵に関連する話題を一人で力説していたらしい。
「つまりですね!人にはそれぞれイメージカラーというものがあるんです!肖像画を描く時には、その人に似合うと思った色を、どの絵の具にもちょびっとだけ混ぜるんです!そうすると…」
延々と続く、私の持論解説に、ナナバさんとゲルガーさんはがっくりと肩を落とした。
「誰だよ、ラウラにこんなに酒を飲ましたのは」
頬を赤くして力説している私を見て、今ではすっかり酔いの覚めたらしいゲルガーさんが言う。
「まぎれもなく君だ。責任を持ちなよ」
小さな声で返事をしたナナバさんは、視線は私から外すことなく言う。
ちょっとでも目を離したら、ぐらんぐらん揺れている私が、椅子から転げ落ちてしまうのではないかと思ったからだそうだ。