第19章 酒
「あははは!ガキだなぁ!」
そう言ってゲルガーさんは、大きなジョッキに入った、何やら泡立った液体をゴクゴクと美味しそうに飲み干したのだった。その飲みっぷりは、初心者の私から見ても見事だ。
「ゲルガー、さっき自分でラウラに言っていたこと忘れないでよ?」
「わーってるってナナバ!今日はラウラのための会なんだ。ハメ外したりはしねぇよ」
少し眉を寄せて忠告したナナバさんに、すでに普段よりもいくぶんご機嫌になりつつあるゲルガーさんは手をひらひらと振って返事をしたのだった。
酒場にはたくさんの人がお酒を飲みに来ていてガヤガヤと騒がしかったが、心地よい程度の賑やかさで、声を張り上げて話さないと相手の声が聞こえないというほどではない。
「で、ラウラは最近どうなんだ?絵の方は順調か?」
頬を赤くしたゲルガーさんが聞いてきた。
「はい!思う存分描かせてもらってます!」
これは本心から思っていることだった。
ハンジ分隊長もエルヴィン団長も、入団したての新兵の絵をとても真剣に見てくれて、まだまだ実力不足であるにも関わらず、活動のチャンスを与えてくれている。
アトリエと画材道具を好きに使わせてもらえたことで、私はこの一年でさらに絵画の技術を高められたと感じている。やはり絵の上達のためには、たくさんの絵を描くことが何よりも大切なのだ。
「そりゃあ良かったぜ。ところでよぉ、お前、同期に友達はいんのか?」
「え」
予期していなかった質問を唐突に投げかけられたため、私は一瞬固まってしまった。そんな私を、ゲルガーさんとナナバさんが見つめているのが分かる。
同期の友達…?そんなのいる訳ない。それどころか、同期たちとは話したことすらあまりないのだ。いわゆる私は「浮いたヤツ」だから。
それは訓練兵時代からのことであり、調査兵になった今でも変わらない。彼らと話をするのなんて、雑用をこなす時か任務の時くらいだ。