第19章 酒
〇
トロスト区の中心街に、ゲルガーさん行きつけの酒場はあった。
そこは大衆酒場で、まだ夕方だというのに近所の男の人達がたくさん集まってきていて、みんな顔を真っ赤にして笑い声を上げながらお酒を飲んでいた。
私たちはガヤガヤと賑わうテーブルの一角に案内された。
「今日は俺のおごりだ!じゃんじゃん飲んで食え!」
そう言ってゲルガーさんは、ドンッと頼もしく胸を叩いた。
全くの初心者である私は、酒を飲めと言われても何を選べばいいのかも分からない。だから最初の一杯はゲルガーさんが選んでくれた。
だけど、注文したものをお店の人が運んできてくれたのを見て思わずまじまじと確認してしまった。
「え?これってオレンジジュースですか?」
私の目の前に運ばれてきたのは、普通のグラスに注がれたオレンジ色の液体だった。グラスのフチには薄く切ったオレンジまで添えられている。
「いや、アルコールと割ったもんだ。初心者にはこれくらいが飲みやすいだろ」
首を傾げた私にゲルガーさんは説明してくれると、「飲め、飲め」とさっそく勧めてきた。
初めて飲むお酒にドキドキしながら、ちょびっとだけ口に含んでみた。すると意外なことに、まず最初に感じたのはオレンジと桃の味だった。
ふわりと口の中に広がる甘味に、私はちょっと拍子抜けしたと同時に、安堵した。
「美味しい」
お酒ってこんな味なんだ…と思った途端、後味というか、少しだけ苦いような味が口の中に残って、ゴクンと飲み干した喉にカーッと熱が集まってくるのを感じた。
「あっ?!!喉が熱い!!」
喉がカッカと熱くなってきて、私はびっくりして首をさすった。それを見てゲルガーさんは、楽しそうに大口を開けて笑った。