第19章 酒
向かうのは、ゲルガーさんの行きつけの酒場だという。
今まであまり詳しく聞いたことは無かったけど、ゲルガーさんは大のお酒好きで、調整日には大抵、酒場で飲んでいるとのことだった。
「ゲルガーがね、君を酒場に連れて行くんだって言って、うるさくて敵わないんだよ。面倒だけど付き合ってやってくれるかい?」
「で、でも私、お酒なんて初めてで…」
道すがら、ナナバさんから事の経緯を教えてもらいながら、私は不安な気持ちを隠しきれず、ゴニョゴニョと口ごもってしまった。なぜなら、「お酒」は今までの私には無縁であり、全く未知のモノであったからだ。
父も母もお酒は飲まなかった。二人がお酒に強かったのかどうかも知らないし、だから、その子どもである自分がお酒に対してどの程度の耐性があるのかも全く分からない。
もしかしたら両親とも下戸だったから、お酒を飲まなかった…という可能性だって考えられる。
いや、そう考える方が自然な気もしてくる。だってどうやってみても、お父さんもお母さんも、酒豪って感じには見えないもんなぁ。
必要以上にビクビクしている私を見て、ニッと笑みを浮かべてゲルガーさんが私の背中をポンポン叩きながら言った。
「そんなに怖がることねーだろ!俺が教えてやるって言ってんだから!だがラウラ、酒場に着く前に一つ勉強だ!酒は飲んでも飲まれるな、だ。
これは大事なことだぞ。次の試験にも出るからよーく覚えとけっ」
「は、はいっ!」
何の試験にだろう…という思いがよぎらない訳ではなかったが、私はとりあえず勢いに任せて頷いた。
「あはは、ラウラは本当に素直で可愛いねぇ」
私たちのやり取りを横で見ていたナナバさんは、端正な顔を美しくほころばせて愉快そうに笑ったのだった。