第18章 似顔絵
以前そのことをナナバさんや兵長に説明したことがあったけど、「言っていることが分からない」と言われた。
全員がそういう訳じゃないのだろうか?中にはできない人もいるって事なのかな?よく分からないけど…。
そんな訳だから、いつ描いた絵なのか思い出せないことはないはずだけど…でもやっぱり思い出せない。まぎれもなく自分の絵なのに。
…となると、考えられるのはあの時だろうか?巨人の捕獲に成功した後、私はしばらくの間気絶していて、いつの間にかアトリエに戻ってきていたことがあった。
あの時はてっきり、緊張の糸が切れたことによって気を失ってしまったのだと思っていたけど、気絶していたのではなくて我を忘れるほど熱中して絵を描いていたのだとしたら?
集中すると周りが全く見えなくなるという自分の癖については自覚しているので、あながち有り得ないことではない…。
自分でもこの癖はどうにかしたいと思っているんだけど、小さい頃から時折出てしまうので、中々直すことができないでいる。
もしも壁外でこの癖が出てしまったら、私は自分が気づかない間に巨人に食われて死んでしまうだろう…。そう思うとゾッとする。
(ん…?でも、そうだとしたら私、兵長にもっと面倒をかけていたのかも…?ただ気絶している人間を運ぶだけでも大変なのに、それが周りも見えないほど熱中して絵を描いていたのだとしたら…骨が折れるどころの話じゃない…)
自分がどんな様子でいたのかを想像して、私は一人で青くなったり赤くなったりを繰り返したのだった。