第18章 似顔絵
「すみません、落書きです。ハンジ分隊長の表情があまりにも良かったのでつい…」
リヴァイ兵長だけではなくエルヴィン団長やミケ分隊長にまで、指示された以外の絵を描いていたことがバレてしまって、私は冷や汗をかきながら弁解した。
だけどそんな私に、ふっと優しく微笑んでエルヴィン団長が言った。
「いいんだよラウラ。これも貴重な記録だ。我らが研究班の班長が、どれだけ熱心に取り組んでいるかがよく分かるじゃないか」
ポン、と肩にエルヴィン団長の大きくて温かい手が乗せられる。服越しにじんわりと伝わってくる温もりが、父さんや兄さん、ライデンのことを思い出させた。
手元のスケッチブックに描き出されたハンジ分隊長の顔を見下ろして、(そういえば、美しいと思ったものを、何にも考えないで描いたのなんて久しぶりだな)と思った。
いつの間にか私は、絵を描くことに意味ばかり求めるようになっていて、純粋に絵を描くことを楽しむ気持ちを忘れてしまっていたようだ。
ちなみに、実験終了後にその似顔絵をハンジ分隊長が見て、
「え~っ、私ってそんな顔してる?」
と、少し照れた様子で叫んだのだった。
〇
捕獲した巨人の研究は、比較的短期間で終了した。なぜなら、首を切り落とす実験で、うっかりハンジ分隊長がうなじまで削いでしまったからだ。
しかも死なせてしまったのは一体だけではない。死亡時期に多少の差こそあれ、捕獲してから約一ヶ月程度で4体の巨人は全て、何らかの拍子にうなじを削ぎすぎて蒸発してしまった。ちなみに、犯人はすべてハンジ分隊長だ。
巨人が死んでしまった時には、自分で手を下しておいて矛盾しているのだがハンジ分隊長はまるで我が子を亡くしたかのような悲しみ様で、人目もはばからずに大声を上げて泣いていた。
殺すつもりはなかったのだから、その気持ちは分からなくもないが…。
だけどそれは、愛する者を失った悲愴ではない。ハンジ分隊長の慟哭は、自分のおもちゃが壊れてしまった時の子どもの泣き方だった。
実際のところ、ハンジ分隊長は巨人を愛してなんていない。
自分の知的好奇心を満たす対象としての執着心はあるが、それは完全に所有「物」に対するものであり、そういう意味では兵団内の誰よりも巨人に対して冷酷であると言えた。