第18章 似顔絵
私はもっぱら、分隊長に指示された絵や図などを描いた。
実験の風景や、巨人の様子、皮膚を切り裂いて露出した身体の内部もスケッチした。
毎日、捕獲した巨人たちを目の前にしているとしみじみと感じるのだが、こんなに巨大な生物を本当によく捕まえたものだと思う。それも一人の犠牲者もなく。
作戦を考え、それを指揮したハンジ分隊長がどれだけ優秀な人なのかを証明していると思う。
エルヴィン団長も紛れもない天才だけど、ハンジ分隊長もまた、常人とは一線を画す天才だ。
そして今日もハンジ分隊長は喜々として巨人実験に取り組んでいて、その表情はキラキラと輝いていた。
傍らで実験風景をスケッチしていた私は分隊長のその表情を見ているうちに、ほとんど無意識に筆が動いてしまっていた。
ふと気が付くと、手元には無邪気に笑っているハンジ分隊長の似顔絵が完成されていた。
「おい、何だそりゃ」
後ろから声がして振り向くと、いつもよりも表情を緩めたリヴァイ兵長が私の手元をじいっと覗き込んできていた。
普段はいく筋ものシワが寄っている眉間がつるりと平坦になっていて、ちょっと気の抜けたような表情だ。まるで十代の少年のように見えた。
「あっ、いえ、これはつい…」
巨人の絵を描いていたはずなのにいつの間にか別の絵に熱中してしまったことに気がついて、私は慌てて言い訳を考えようとしたが、悲しいことに何も上手い言葉が浮かんでこない。
「おや?これはよく特徴を捉えているな」
心地よく耳に響く低音の声が聞こえ、リヴァイ兵長の後ろからエルヴィン団長が顔を出した。
その傍らにはミケ分隊長の姿もあって、私の手元の絵を覗き込んでくる。
「あぁ、今にもここからハンジがもう一人出てきそうなくらいだ」
と、団長の言葉に応えるようにしてミケさんが鼻をスンスンと鳴らして笑った。
「…それは御免被りたいがな」
二人のやり取りを聞いていた兵長がボソリと言った言葉は辛辣だったけど、その表情はとても穏やかだった。