第18章 似顔絵
そう言えば、巨人を捕獲した日も、私は泣いてしまったような気がする。
「気がする」というのは、実はあの日の記憶は一部抜け落ちてしまっているところがあって、はっきりと思い出せないのだ。
巨人を捕獲して壁内に連れてきたところまでは覚えているのだが、どうしてもその後のことが思い出せない。
気がついたらいつの間にか自分のアトリエにいて、手にはいつも持ち歩いている小さなスケッチブックと鉛筆が握られていた。
あの時のことで唯一はっきりと覚えているのは、はっと意識が戻った時に視線の先にリヴァイ兵長が座っていたことだけだ。
すっかり定位置になった窓際に椅子を置いて、兵長はマントも取らないまま足を組んで腰掛け、じっと私を見つめていた。
まだぼんやりとしている頭のままで、ぽかんと兵長のことを見つめ返すと、兵長は椅子から立ち上がって「今日はもうクソして寝ろ」とだけ言って部屋から出て行ってしまったのだった。
(もしかして、兵長がここまで運んできてくださったのかな?)
パタンと、思っていたよりも静かに閉められた扉を見つめながら、私はまだぼんやりする頭で、(明日いらっしゃった時には、紅茶を用意しておこう)と思ったのだった。
〇
捕獲した巨人の生態実験は、過去の実験の反復から始められた。
意思の疎通も、日光の遮断も、痛覚の確認も…過去の実験から得られた以上の情報は得られず、せいぜい分かった事といえば、やはり「個体によって反応にはかなりの差がある」ということくらいだった。
だけど、それでもハンジ分隊長は最高に楽しそうだった。
中性的で整った顔を、子どものように無邪気にほころばせて巨人に話しかけている姿はみんなの目には異様に映ったかもしれない。だけど私はそんなハンジさんの表情を美しいと思った。
一生懸命に何かに取り組んでいる人というのは、ただそれだけで尊敬に値すると思う。
その情熱故に暴走しがちな分隊長についていくのは中々大変なことだけど、そんな熱意を持った人が自分の上司であることを私は誇らしく思っている。