第16章 尊敬
〇
壁内に到着した頃には、オルオもすっかり普段通りの様子に戻っていて、泣きじゃくってしまった自分を恥じているようだった。
その恥ずかしさを隠すためなのかは分からないけれど、ちょっとぶっきらぼうな言い方で私に忠告してきた。
「お前…ハンジさんに目ぇつけられてんだから、気をつけろよ」
尊大な口調の割にはヒソヒソと隠れて話してくるのが、何だかちょっと可笑しくて、私は微笑んだ。
「うん、気をつける」
笑っている私に、オルオは呆れたようにため息をついた。
「おいおい、冗談じゃねぇんだからな?お前はあの現場にいなかったから分からないだろうけど、ハンジさんは本当にヤバイ」
「うん、分かってるよオルオ」
そう言って私は、もう一度大きく頷いた。
そんなこと、十分わかっている。入団式の時に声をかけられた時から、気づいていたことだ。
だけど、その一途さは全て「人類の勝利のため」と信じてやっていることも知っている。
ハンジさんは巨人研究のためなら手段を選ばない狂人かもしれないけれど、その信念は紛れもなく「人類のために心臓を捧げる兵士」だ。
だから私はハンジ分隊長を尊敬しているし、ついて行こうって思えるんだ。
巨人の捕獲はできなかったものの、ハンジ分隊長は「イルゼ・ラングナー」という兵士の遺した手帳を手に入れた。
その手帳によると、巨人が意味のある言葉をしゃべったらしい。
詳細はまだまだ謎に包まれているけれど、今ハンジさんが血眼になって手帳を読み込んでいるから、おそらく少ししたら班員にも情報共有がなされるだろう。
私は結局、今回も巨人との戦闘はなかった。…これでいいのだろうか、という思いが無い訳ではない。
もちろん巨人と遭遇せずに生きて帰ってくることが何よりも大切だ。
だが、前回も今回も巨人が現れなかった訳ではないのに私は、戦闘には一切貢献できていない。
班分けをして、それぞれが持ち場を与えられているのだから、全員が戦闘に参加しないのは当然のことなのだが…。
何だかいつも先輩たちに助けられてばかりで、私はちゃんと自分の力で生き残れていると言えるのかどうか疑問を感じ始めていた。