第16章 尊敬
〇
そのすぐ後だった。
ミケ分隊長が巨人の接近を嗅ぎつけ、総員が戦闘準備に入ろうとバタバタとしていた時、我慢しきれなくなったハンジ分隊長が単騎で森に飛び込んで行ってしまったのだ。
「ハンジっ!!リヴァイ、追え!!」
「ちっ…」
険しい表情をして団長が兵長に指示を飛ばす。それに対して、兵長は心底迷惑そうな顔をして舌打ちをした。
「お前ら、ついてこい」
そう言って兵長は、傍らに駆け寄ってきた特別作戦班の面々を引き連れて、分隊長の後を追っていった。
それはまさにあっという間の出来事で、まだまだ壁外調査に慣れていない私は、ただマゴマゴとその場に立ち尽くしているだけだった。
とっさの時、私はまだ何もできない。
きっと私が不安そうな表情を隠しきれずに立ち尽くしていたからだろう。モブリット副長が声をかけてくれた。
「ラウラ、大丈夫だ。ハンジさんは強い。巨人に食われるようなヘマはしないさ。それにリヴァイ班が援護に行ってくれたから、何も心配はいらない。
さぁ、こっちはこっちで、巨人の襲撃に備えるぞ」
「…っ!はいっ!」
普段は穏やかな副長の精悍な表情に、私のぐにゃぐにゃに震えていた気持ちも、ピシッと正されたような気がした。
結局、本陣の方にも巨人が2体ほど現れたのだが、ミケ分隊長を始めとする精鋭班があっという間に片付けてしまった。
そしてほどなくして、ハンジ分隊長を連れたリヴァイ班が戻ってきた。
私は皆の無事な姿を見て、ホッと胸をなでおろした。本当に良かった。
急いでリヴァイ兵長たちのもとへと駆け寄って行くと、班の後ろの方でオルオが顔をクシャクシャにして泣いていることに気がついた。
「オルオ?!どうしたの、どこか怪我でもしたの?!」
慌ててその身体を確認し始めると、傍らにいたペトラが首を横に振った。