第16章 尊敬
「ハンジさんっ!!」
傍目から見てもゾッとするような表情を浮かべている分隊長に、ペトラが悲痛な声を上げる。
それに続いてモブリット副長も「分隊長!やりすぎです!!」と叫んだ。
二人の声が何とか耳に届いたらしい分隊長は、ふうっとため息のように息を吐くと、普段良く見せるようなニヤリとした笑みを浮かべた。
「…ふふっ。ゴメンごめん、でもまぁ、そういう事だよ」
そう言ってハンジ分隊長はオルオをつき離すと、歩いて行ってしまった。モブリット副長は、あわててその後を追いかけて行った。
「げほっ、げほっ!」
地面に尻餅をついて激しく咳き込んでいるオルオに私は駆け寄ると、その背中をさすってやった。ちょっとだけ涙目になっている。
「くそぅ、マジで死にかけたぜ…あの人、正気じゃねぇよ…マジで狂ってる」
苦しそうに肩を上下させているオルオが、眉をひそめて、吐き捨てるようにして言った。
そんな彼をちょっと呆れたように見下ろしながらペトラがため息をつく。
「あのさぁ、あんたももう一応調査兵団の一員なんだから、もうその芋臭いしゃべり方やめてくれない?」
「はぁ?んだよ、そのお節介はよぉ。お前、リヴァイ班に指名されてから、ちょっと変だぞ。
お前だって前はこのしゃべり方してただろーが。これは俺らの街の言葉だろ?」
オルオに言い返されて、ペトラが少したじろぐ。
「なっ…と、とにかくっ、芋臭いのよっ!そんな芋い奴が二人も班の中にいたら、リヴァイ班の品位が落ちるでしょっ」
「なんだとっ」
二人共気が立っているのだ。いつもの軽口を叩き合う雰囲気とは違って、本気の喧嘩に発展しそうな気配を感じて私が慌てて仲裁に入ろうとした時、エルドさんが眉間にシワを寄せてやって来た。
「ペトラっ、ガスの補充は終わったのか?!」
「はっはいっ、エルドさんっ!あと少しですっ」
エルドさんに叱られて、ペトラは慌ててオルオの傍から離れると、補充が終わっていないガスボンベのもとへと走っていった。
「ラウラとオルオも、さっさと作業に戻れ。いつ巨人の襲撃があってもおかしくないんだぞ!」
「はいっ」
私たちも慌てて作業に戻ったのだった。