第16章 尊敬
でもその一方で、私はハンジさんの言っていることも正しいと思う。
例えどんなに些細な情報であっても、それは必ず何かの役に立つ。情報を得られなかったとしても、「なぜ得られなかったのか」が分かる。
それが分かるだけでも意味があると捉えることができるだろう。つまり、行動したことに対して「全くの無意味」ということは無いのだ。
それに、「犠牲を恐れていては、情報は得られない」というのは、私自身の気持ちにも近いものがあった。
私は巨人の絵を描きたい。それは、その絵が何かの役に立つかもしれないと信じているからだ。
だけど巨人を描くためには、巨人に物理的に近づかなければいけない。当然命に危険が及ぶし、ヘタをしなくても死ぬ可能性は十分にある。
だけど、怪我をしたり死んだりという犠牲を恐れて巨人に近づこうとしなければ、私は巨人の絵を描くことはできないし、つまり情報も得ることはできないのだ。
私にはこの世に未練を残す相手なんてもういない。だからという訳ではないけれど、巨人の絵を描くためなら、この命なんていくらでも差し出したって後悔はないと思っている。
「待ってよ、エルヴィン!!」
テントの中から厳しい表情をして出てきた団長を追いかけて、ハンジ分隊長も飛び出してきた。
だけど、スタスタと歩み去ってゆく団長の背中からは振り向いてくれる気配すら感じられないので、さすがの分隊長も諦めた様子でその場に立ち尽くしたのだった。
そこに、何とオルオが「やっぱり無理っすよ…」と声をかけたのだ。
私はイヤな予感がした。ハンジ分隊長は今、最高に機嫌が悪いだろう。そんな状態のところを煽ったりなんかしたら…。
「うぐぅっ!!」
案の定、興奮したハンジ分隊長に胸ぐらを掴みあげられて、オルオはほとんど宙吊りのような格好になってしまった。
オルオだって決して小柄ではない。その彼をギリギリと持ち上げているハンジ分隊長の腕力は、相当のものだ。
…やはりこの力強さは男性だからなのだろうか?いまだにハンジ分隊長の性別が分からない…。こんなことを考えている場合じゃないんだけど。