第16章 尊敬
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私達は長距離索敵陣形を展開し、いつも通りに巨人を極力避けながら行路を進んで行った。
陣形のおかげで巨人との戦闘は最小限に抑えられたはずだ。だけど、それにもかかわらず十人以上の犠牲者が出てしまい、まさに私たちは命からがら、今回の壁外任務の目的地である町へと到着したのだった。
私たちはすぐさま訓練通りの班に分かれ、各々に振り分けられた任務についた。
私は立体機動装置のガスの補充係になり、同じく補充係になったペトラとオルオと一緒に作業に当たっていた。
団長たちのいるテントの横で作業をしていると、中から、やや苛立った様子のハンジ分隊長の大声が響いてきた。
「ちょっと待ってよエルヴィン!!」
聞き耳を立ててみると、話していることはやはり巨人捕獲作戦のことだった。
ハンジ分隊長は「犠牲を恐れていたら、情報は得られない!!」とほとんど怒鳴るようにして言っていた。オロオロと、それを諌めているモブリット副長の声も聞こえてくる。
「あーぁ、またハンジさんがやってらぁ…」
私と同じように聞き耳を立てていたオルオが、少し困惑したような表情で言った。
その表情から察するに、きっとオルオは巨人捕獲作戦を決行することに疑問を感じているのだろう。
巨人を捕まえて観察をすれば、今までに知り得なかった情報を得ることができるかもしれないけれど…果たしてそれは、何十人もの兵士の命を犠牲にして得るに値するものなのだろうか、と。
その思いは当然の事と言える。
犠牲を恐れていては情報は得られない。そんなことは誰だって分かっている。だけど…一体誰が、その「犠牲」に進んでなりたいと思うだろうか。
もし…仮にもしも、多くの兵の命を失って捕獲した巨人から、何の情報も得ることができなかったとしたら…犠牲になっていった兵士たちの死には一体何の意味があるのだろう。
「人類の進歩のための犠牲」という綺麗な言葉で簡単に済ませられるものではない。
彼らには一人一人に信念があり、夢があり、守りたい家族がいる。全員が、失ってはいけない尊い命なのだ。
巨人捕獲作戦は、犠牲に対して得られるものがあまりにも少ない。
だから確かに、オルオが賛同しないのも理解できるのだ。