第16章 尊敬
兵団内でのエルヴィン団長のイメージというのは、やはり「厳しい」「怖い」というものが大多数だと思う。
団長として兵士たちをとりまとめていかなければならない立場上、そのように振舞うこともあるのだろう。
だけど、私が団長に対して抱いているイメージは、大多数の兵士たちとは違っていた。
巨人研究班に配属されてからというもの、私は時折、巨人の絵を見せに来るようにと団長室へ呼び出されていた。
ハンジ分隊長に引きずられて、初めて団長室に絵を持っていった時は緊張で身体が震えたものだが、何度も団長室を訪れている内に随分と慣れたのだった。
私の絵を見ている時の団長は、その太めの眉をキュッと寄せて厳しい顔をしているけれど、見終わった後は、先ほどまで堅く引き結んでいた口元を少し緩めて、普段と比べると随分と柔らかい表情をされる。
そして口調だけは厳格なまま「これは他の兵士には内密に」と言い、こっそりとお菓子をくれるのだ。
エルヴィン団長の大きな手が、可愛らしく包装をされた甘いお菓子を差し出してくる光景は何ともギャップがあって、一体どんな顔をしてこのお菓子を買ったのだろうと想像して顔が緩んでしまう。
絵を見せに行くたびにこんな感じなので、私の中でエルヴィン団長は「やさしい方」というイメージになっているのだった。
だから、作戦会議中の厳しいエルヴィン団長の姿を、私はイマイチ想像できないのだ。
入団式の時や、初めての壁外調査の時もその緊張感のある佇まいは何度も見てきたけど、面と向かって優しい顔を見せられてしまうと、つい厳しい顔の方がぼやけていってしまうのだ。
結局最後までハンジ分隊長の「巨人捕獲作戦(案)」は通らず、分隊長はあまり機嫌のよろしくないまま会議室を後にしたらしい。
だけど、そんなに簡単にへこたれる分隊長ではない。隙あらば作戦が決行できるように、いくつものパターンで実行方法を練っていたのだった。