第16章 尊敬
寝不足のためかフラフラと足元がおぼつかない様子のハンジ分隊長に、モブリット副長が「分隊長!少し寝てください!」と心配そうに声をかけている。
モブリット副長は本当に、公私に渡ってハンジ分隊長を献身的に支えている。ああいう有能な部下がいてくれるからこそ、ハンジ分隊長も安心して無理ができるんだろうな。
とは言っても、ちょっと無茶し過ぎのような気がするけど…。
ハンジ分隊長は、睡眠や入浴に時間を割くくらいなら巨人研究をしたいという、まさに三度の飯より研究が好き、といった感じの人なので、常に睡眠時間が少ない。
そして最近特に徹夜が続いているのだが、それには理由があった。
次回の壁外調査において、巨人の生け捕りを目論んでいるのだ。ハンジ分隊長は、15年以上も中断されていた巨人捕獲作戦を再開させようと考えている。
巨人の捕獲は過去何度も試みられ、実際に数回は成功している。しかしその成功のために本当に多くの兵士が犠牲にならざるを得なかった。
そのため、巨人研究の重要性は理解しつつも、得られる情報と失う兵士の数や資材を天秤にかけて、いつしか巨人の捕獲は行われなくなってしまっていたのだった。
ハンジ分隊長は、いよいよそれを再開させたいと主張しているのである。
「巨人の正体を突き止めることは、調査兵団本来の目的のはず!それには巨人の捕獲が、絶対に必要なんだ!」
と会議の席で言い切ったハンジ分隊長に、エルヴィン団長は最後まで首を縦には振らなかったらしい。
「兵站拠点作りが最優先事項だ。捕獲作戦に兵を割くだけの余力はない。却下する」
私はその場にいなかったから分からないけれど、エルヴィン団長はとてつもない切れ者であり、それゆえに会議の席などでは時に冷淡にも思えるほど冷静に判断を下すそうだ。
例え相手がどんなに熱弁を振るおうとも、決してその熱に流されるようなことはないと聞く。