第2章 奪われたもの
「ラウラっ!!」
ぐいっ、と強い力で腕を掴まれ引き上げられた。
立ち上がったかと思う間もなく、右腕は父が、左腕は兄が掴んで、ほとんど私は引きずられるようにして、今座り込んでいたところから後退した。
「え…、え…何…」
「逃げるんだっ!!」
と、父が大声で叫ぶ。
温和な父のこんなに大きな声は、生まれて初めて聞いたかもしれない。
「えっ…待っ…」
私は弟と母が居た方向を見た。
だけどそこには、今までに見たこともない巨大な岩が鎮座していて、弟と母の姿は無かった。
「待っ…エリクと母さんはっ…!?」
「……っ!!」
私の問いに父も兄も答えず、青い顔をして俯いただけだった。だけど、二人は足を止めることは無かった。
「えっ……」
後ろ向きのまま二人に引きずられながら、私はもう一度大岩の方を見た。
さっきまで舞い上がっていた土埃が風で流されて、辺りの様子がやっと見えてきていた。
その視界の晴れた先に、岩の下から伸びた小さな手が見えた。
ザワッと全身の毛が逆立つような感覚に襲われる。
さっき、床を伝って流れてきたあの鮮やかな赤は……あれはまさか……。
「エッ、エリクッ!!母さんっ!!」
気づいたら私は、ジタバタと足をバタつかせてもがいていた。助けなきゃ…!エリク!母さん!岩をどかさなきゃ…!
「ラウラっ!!逃げるんだ!!」
今度は兄が怒鳴るようにして言った。その声は震えていた。
「だってまだ!エリクと母さんがっ!!」
「二人はもうダメだっ……!!」
父が怒鳴った。
「もう…ダメなんだよ…っ…ううう…」
嗚咽を漏らし始めた父の声を耳元で聞きながら、私は何か深くて暗いところに落ちていくような気持ちがした。
ズルズルと引きずられる足裏の感覚も、まるで自分のものではないような、遠い感覚だった。