第2章 奪われたもの
少しの間じっとしていると、不安を掻き立てるような地響きが少しずつ小さくなっていくのを感じた。
肩に置かれた父の、大きくて温かい手の感触に意識を向けていると、ちょっとずつ気持ちが落ち着いてくるような気がした。
一体何だったんだろう、今の揺れは。
「…うっ…」
誰もが黙り込んでいる中に、嗚咽のような音が聞こえた。
見ればエリクが、母にしがみつきながら涙目になっている。今の揺れにびっくりしたのだろう。綺麗なエメラルドグリーンの瞳が涙で潤んでいた。
何も泣くことはないだろう、とちょっと可笑しくなったけれど、エリクはまだ10歳の子どもだ。怖くなるのも仕方がない。
「エリク~、怖かったねぇ」
私は弟をあやしつけようと足を踏み出した。その時、
ドッゴオオオォォ!!!
さっきの揺れとは比べ物にならないほどの大揺れと轟音が響いた。
音が衝撃波みたいになって襲ってきて、耳が痛くなった。鼓膜が震えているのが分かる。
どこからかヒュウウウ、と笛を吹くような音が聞こえる。何だろうこの音は。
バキバキバキッ!!ドオオオォォ!!ガシャアアアン!!!
耳をつんざくような轟音が響き、突然目の前が何も見えなくなった。
気がついたら私は1メートルくらい後ろに吹き飛ばされていて、ペタンと床に座り込んでいた。
土埃が舞い上がって、何も見えない。え……?何が起こったの?
モクモクと舞い上がる煙の向こうから、何か赤い液体が床を伝ってドロリと流れてくるのが見えた。
真っ赤…なんて鮮やかな赤なんだろう。