第15章 見えている世界
一晩経って少し冷静になった私は、急に弱気になってしまったのだった。
今更ながらあれやこれやと心配になってきて、兵舎の正門前で右往左往した。多分、傍目から見たら相当挙動がおかしい奴だろう。
自分のしっぽを追いかける犬みたいにして、くるくると回っていた私に、誰かが「おい」と声をかけてきた。
ドキッとして声のした方を振り返り、その声の主を知って私は慌てて敬礼をした。
「兵長!」
私の視線の先には、兵服を着た兵長が怪訝な表情をして立っていた。
やはり、私の動きを不審に思われたらしい。…当然だろう。
「何を回転してやがる」
「あっ、いえ…別に…」
「ここで何をしている」
まるで尋問するような口調であるが、私は知っている。兵長は別に怒っている訳ではないということを。ただ、こういう話し方なだけなのだ。
慣れてしまえば、この簡潔な話し方の中にもユーモアが隠れていることにすぐに気が付く。現に今も、私の動きを「回転」などと表現してくれた。
私は持っていた絵を布から出して兵長に見せると、ライデンのおじさん夫婦の家に行くつもりであると説明した。
ついでに、いざ行こうとしたら急に心配になってしまったということも付け加える。
兵長は、私が差し出した絵をしげしげと見つめた後、ポツリと言った。
「俺も行こう」
「えっ!よろしいのですか?何かご用事があるのでは?」
「…あぁ。少し買い出しがある。後でお前にも手伝ってもらうからな」
そう言って歩き出した兵長の後を追って、私も歩き始めた。
道すがら聞いたところによると、兵長は掃除用具を買いに行かれるそうだ。
なにも兵士長直々に買い出しに行かなくてもいいのだが、きっと兵長は自分の目で見て、掃除用具を厳選したいんだろうと思った。