第15章 見えている世界
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ここしばらくの間、ハンジさんから依頼される絵の制作をする合間に私はあるものを描いていた。それはライデンと、ご両親の絵だった。
おばさんが亡くなったことをわざわざ伝えに来てくれたお兄さん夫婦に、どうしてもお礼がしたかったのだ。
だから、ライデンたち家族の絵を描いて持っていこうと思いついた。
「完成した…」
絵の具のついた筆をパレットに置いて、私はいつの間にか額に浮かんでいた汗をぬぐうと、詰めていた息を大きく吐いた。
家に飾っても邪魔にならない程度の、少しだけ幅広のキャンバスに笑顔の3人の姿を描いた。ライデンを真ん中にして、両脇におじさんとおばさんがいる。
おじさんの顔は、記憶している中で一番いい笑顔を思い出して描いたし、ライデンとおばさんの顔は、彼と一緒におばさんに会いに行った時の情景を思い出しながら描いた。
…あの日は、本当に楽しかったなぁ。
窓の外を見ると空が赤く染まっていて、日が沈みかけていた。すっかり日が長くなってきたから、すでに夕飯時だというのに全く気がつかなかった。
日中は眩しいくらい明るく照らされている世界が、どんどん薄暗くなっていく夏の夕暮れは少し切ない気持ちになる。
「明日、行ってみようかな」
明日は調整日だし、完成した絵をさっそくお兄さん夫婦のところに持って行こうと思い立った私は、描き上げた絵を見つめて3人が生きていた頃のことに思いを馳せて、少しだけ泣いたのだった。
翌日も、夏らしいカラリと晴れた日になった。雲がほとんどない真っ青に晴れ渡った空は、どこまでも高く広がっているように感じた。
昨日描き上げた絵は丁寧に布に包んであり、準備は万端だ。
今日は調整日だけど兵服を着ている。特に理由は無いけれど、何となく、この服装の方がふさわしいような気がしたから。
だけど…昨日はつい、絵が完成した高揚感から「さっそく持っていこう」なんて気が大きくなってしまったけれど、突然行ったりして迷惑じゃないだろうかと心配になってきた…。
いくらライデンのおじさん達だとは言っても、私が会ったのはまだ一回しかない。突然伺うのは失礼じゃないか。
いや、でもお兄さん夫婦はわざわざ兵舎まで私を訪ねて来てくれて、おばさんが亡くなったことを知らせてくれたんだし…。