第15章 見えている世界
そんな失礼なことを考えていた時、兵長は膝の上に乗せていた本をパタンと閉じた。
「確かに、お前の言っていることは俺にも分からねぇな」
唐突に言われた言葉に、私は一瞬何のことだろう?と頭がフリーズしかけたが、すぐに「場面を切り取って覚えている」と言ったことだろうか?と思い当たった。
「ナナバだけじゃなく、俺にだってそんな芸当はできねぇ。お前、いつからそんな事ができるようになった?」
兵長の問いに私は首を傾げて、出来うる限り記憶を遡ってみた。
いつから?…多分そんなのは初めて絵を描いた時からだ。
2歳か3歳くらいの頃にはスケッチブックを持って近所を歩き回っていて、出会った人の似顔絵を手当たり次第に描いていた。
その時から、自分の頭の中にある映像を描き写すような感覚を持っていたんだ。
「覚えている限りでは…最初からこうだったように思います」
「……そうか」
私の返答に対して兵長はそれ以上は何も言わずに椅子から立ち上がると、部屋の扉に向かって歩いて行った。
「もう飯の時間だ。さっさと行け」
それだけ言うと、兵長は部屋から出て行ってしまった。
パタンと静かに閉じられた扉を見て私は、(兵長って、粗暴なところはあるけれど、物は大切に扱うんだよなぁ…)などと、全く違うことを思ったのだった。