第15章 見えている世界
ナナバさんの問いかけに、私はふと、自分が絵を描いている時にどんな風にしていたかを思い出してみた。
「うーん…何と言うか、例えるなら、その場面をそのまま切り取って頭の中に保存してる感じなんです。本みたいに。だから後で絵を描く時は、それを見てそのまま描き写してる…って感覚ですね」
「へぇ…」
私の返答に、ナナバさんは分かったとも分からないとも判断できない曖昧な表情を浮かべると、ほうっと息を吐いた。
「少なくとも私には、そんなことできないな」
そう言ってからもナナバさんは、飽きることなくその巨人の絵を見つめていたのだった。
その後ナナバさんは一時間ほどアトリエで過ごしていった。
壁外調査で班が一緒になって以来、兵舎内で会えばちょこちょこと言葉を交わすし、一緒に食堂で食事を摂ったりもする。
だけど、壁外任務に向けての訓練があった頃のようには頻繁には会えないので、話したいことがたくさん溜まっていた。
私はまるで、話すことに夢中になって母さんにまとわりついていた弟のエリクみたいに、色々なことをナナバさんに話したのだった。
ナナバさんが帰ってからも、リヴァイ兵長はまだ窓際の席で本を読んでいた。
私は、彼女と話すのに夢中になって兵長のことを完全に放ったらかしにしてしまったことに気がつき、今更ながら焦った。
どうしよう…ちょっと配慮が足りなかったかも…。
だけど、私のそんな心配など全く気にしていない様子で、兵長はいつも通りの表情で過ごされていた。
というか兵長、結構長いこといらっしゃるが、お仕事はいいのだろうか?