第15章 見えている世界
私に向かって投げかけられた質問は、兵長によって答えられた。
「…そうだ。俺にだって、芸術を愛でる心はある」
「…くっ!あはは、まさかリヴァイからそんなセリフが聞けるとはね」
ナナバさんは心底楽しそうに笑った。
一方のリヴァイ兵長はと言えば、どことなく面倒くさそうな顔をして、音こそ聞こえなかったが小さく舌打ちしたようだった。
部屋の中にはイーゼルが乱立していて、正直言って歩きにくい。だけどあえてそのようにしている。
バラバラに並べることで、色々な角度から絵を見渡すことができて、それがインスピレーションにつながることもあるからだ。
ナナバさんの座っているすぐ横のイーゼルには、先日エルヴィン団長に見せに行った奇行種の絵が置いてあった。
報告会議が終わったので、とりあえず私のもとに帰ってきたのだ。
その絵に視線を合わせて、ナナバさんが頷く。
「あぁ、これが例の油絵だね。…うん、やっぱりすごいよ。ラウラの絵がすごいのは知っていたけれど、これはもう全く別次元の出来栄えだ。プロの画家だよ」
「いや…そんな…、私なんてまだまだ未熟者ですから」
ベタ褒めしてくれるナナバさんに、私は嬉しく思いながらも恐縮して首を振った。
「ラウラはもっと自信を持っていいと思うよ。思い上がるのはよくないけど、自分の能力を正当に評価するのは大切なことだ。素直に誇っていいよ。ラウラの絵はすごい」
「…ありがとうございます」
私はどうにも、胸の奥がムズムズするような、恥ずかしくなるような気持ちになったけれど、大好きなナナバさんに褒めてもらえて嬉しかった。
照れているのを隠しきれない顔で笑っている私のことを見つめてナナバさんは少し微笑んだ後、また奇行種の油絵に目をやった。
「うん…うん…、確かにこんなヤツだった。奇行種だから当たり前なんだけど、ヘンテコな走り方をしてたよなぁ。そのヘンテコぶりが、よく表現されている。
でも、ほんのちょっとしかその姿を見ていないのに、よくここまで細かく描けるねぇ」