第2章 奪われたもの
「そうだぞラウラ。お前は、技術はまだまだ未熟だけど、その絵には温かさがある。それは間違いなくお前の才能だ」
兄が言ってくれたその言葉に、喜びと誇らしさを感じる。だけど少し、照れくさい気もする。
父をそのまま若くしたような顔立ちをした兄の方を見て、私はコクリと頷いた。優しく細められた兄の瞳は、エメラルドグリーンに輝いていた。
兄は、全体的に父に似ているが、瞳の色だけは母似だった。ちなみに弟は、全体的にも瞳の色も、母親にそっくりである。
本当に、人間とは不思議なものだ。同じ両親から生まれてきたのに、3人ともそれぞれに見た目も得意な事も違うのだから。
私はスケッチブックを鞄にしまうと、自分の部屋に戻るため立ち上がろうとした。
その時、ゲホゲホと兄が咳をした。
「兄さん、風邪ひいた?」
「ゲホッ、そうだなぁ…最近少しずつ肌寒くなってきたからかな」
「リベルト、今日は早めに寝なさい。お前はあまり身体が強くないんだから」
「…はい、父さん」
そう父に言われると、少し困ったような笑顔を浮かべて兄は頷いたのだった。
まさにその時だった。
ドオッと下から突き上げられる様な地鳴りを感じたのは。
ビリビリと空気が震えているのが分かる。家の柱がミシミシと音を立てた。
「なっ、何?!」
私は思わず立ち上がった。
弟は母にしがみつき、母は弟の小さな身体を必死にかき抱いた。
「地震か?」
私の隣に座っていた兄も立ち上がる。
テーブルを挟んで向かい合って座っていた父が、テーブルを回って小走りに寄ってくると、私と兄の間に立って、私たちを引き寄せるようにして肩を抱いた。