第13章 巨人研究班
ペラリ、ペラリと兵長はスケッチブックをめくっていく。
ちょうど、父さんに最後に見てもらった絵と、端の方に落書きが描かれているページが開かれていて、その次のページには、人間を食う巨人の姿が描かれていた。
シガンシナ区から命からがら逃げてきて、避難所で初めて夜を過ごした時に描いたものだ。
食われている人間は父さんだ。
…だけど、私は父さんのその顔まで描くことがどうしてもできなくて…いや、描きたく無くて、だからその絵の中の父さんの顔は、真っ黒に塗りつぶしてあった。
兵長は何も言わずにその絵を見つめた後、また次のページをめくった。
次のページは、兄さんの肖像画だった。病床についた頃の兄さんじゃなくて、実家で穏やかに暮らしていた頃の兄さんの顔だ。
その表情はとても穏やかで、包み込むような優しい笑顔を浮かべている。
この絵は、兄さんが亡くなった後、寂しさを紛らわすために描いたものだ。記憶の中の兄さんを、鮮明に見つめたかったから。
ちなみに、もっと前のページには家族全員の肖像画を描いてあったから、そっちのページもよく見返しては、一人きりの寂しさを紛らわせていたものだった。
急かすこともなく、ただ黙って私の返事を待ってくれている兵長に、私はポツリと言った。
「私の父は、巨人に食われて亡くなりました」
そう口にしたら、次々と言葉が溢れるようにして口から流れ出ていった。
「母と弟は、超大型巨人が蹴り破った壁のガレキに押しつぶされて亡くなりました。
一緒に開拓地に逃れた兄は、過酷な労働環境で体調を崩して、栄養失調で亡くなりました…。
死ぬ間際の兄に言われたんです。『いつかきっと人の役に立つから、巨人の絵を描き続けろ』と。
私は『たくさん巨人の絵を描く』と誓いました。だから、その約束を果たすために調査兵団に入ったんです。
どんな風に役立つことができるかは分かりませんし、私では力不足かもしれませんが…何とか少しでも人類の進撃の一助になれればと思って、巨人の絵を描いています」
長くなってしまったけれど、一息にそう言い切った私のことを、いつの間にか兵長が見つめていた。