第13章 巨人研究班
だけど兵長は特に怒ることもなく、チラと私を一瞥すると、手に持っていた本にまた目を落として言った。
「お前を」
「え」
またもや私は、気の抜けたような声を上げてしまった。
「私を、ですか?」
「そうだ」と、兵長は怪訝な表情をして顔を上げると、再度私を見つめた。
「お前の絵を見せろと言っただろう。お前が中々持って来やがらねぇから、見に来た」
中々…とは言うけれど、真夜中の中庭で励ましてもらったのは、つい一昨日の話だ。いくら何でもそんなに早く絵を完成させることはできない。
あ…でもそう言えば、その前にも兵長と話している。壁外調査の前日の夜、この待合室でのことだ。その日から数えているのであれば、確かに2週間近く経っているかも…。
「…邪魔か?」
意外にも少し弱気な言葉を口にした兵長に、私は慌てて首を振った。
「そんなこと!絶対にありません!あの、こんな事を言うのはおこがましいのですが、よろしければ私の絵を見ていってください!」
そう言った私に、兵長は小さく「ならいい」と返事をして、膝の上に置いた本にまた視線を落とした。どうやら読書をしつつ、私の絵も見てくださるようだ。
私は恐縮しつつも、持ち運び用の小さなイーゼルを立ててキャンバスを乗せると、カバンに詰めてきた画材道具を待合室のテーブルの上に広げていった。
今日の昼で大体の下書きは終わったから、これから色をつけていかなければならない。
ランプのオレンジ色の光のもとで色付けをすると、微妙に色が違って見えるから嫌なのだが、描かない方がもっと嫌なので、描く。