第13章 巨人研究班
その日も、かき込むようにして早々と夕食を平らげると、私は画材道具を抱えて待合室へとやってきた。
今は一分一秒でも時間が惜しい。食事や睡眠の時間を削ってでも、絵を描く時間に充てたい。
とは言っても、兵士の本分に支障のない範囲でだが。
絵を描くために夜ふかしをし過ぎて、肝心の訓練が疎かになってしまっては本末転倒だ。
訓練にも絵にも全力で取り組みたいけれど、そのさじ加減が難しいところだ。それに、そんなに長く集中力を保つこともできないから、短期決戦で臨まないといけない。
灯りが漏れ出る待合室に近づいていくと、ゆらりと室内に人影が動くのが見えたので、私はがっかりした。
まさか、先客が居るのだろうか?まぁ、あそこは共有のスペースだし、今まで私が勝手に占領してしまっていた方が悪いんだけど…。本来の目的で使用する人がいたところで、その人は全く悪くない。
ただ…夜になってしまうと、この部屋以外で絵を描ける場所が無いから、…困る。このまま絵を描かないで部屋に帰るのもなぁ…諦めきれない。
よし、ほんのちょっとだけ覗いてみよう。もしかしたら、すぐに出て行ってしまうかもしれないし…。
私は、そんな非常に身勝手な期待を胸に、待合室の中をそうっと覗き込んだ。
「え」
部屋の中を見て、私は思わず声を上げた。
そこにはリヴァイ兵長の姿があったからだ。
「兵長、お疲れ様です。待ち合わせですか?」
私は意外に思いながらも入室して、兵長に挨拶をした。
兵長とはもう何度も話しているし、この上なくぶっきらぼうだけど、とても優しい人なのだということが分かっているから、以前ほど緊張せずに話せるようになっていた。
兵長は椅子に腰掛けて、組んだ足の上に本を乗せて読んでいた。私が声をかけると本から視線を上げて、小さめの口を開いた。
「あぁ、待っていた」
待って いた ?
兵長の言葉に少し違和感があったが、私は思わず「どなたをですか?」と尋ねてしまった。
一介の兵士が兵士長の予定を聞くなんて、少し不躾だったかもしれない。