第12章 変わり者
分隊長がそう叫んだ時には、すでに私たちの身体は廊下を走っていて、その後ろをモブリットさんが眉を下げて必死になって追いかけてきていた。
最高に興奮してはいるものの、ハンジ分隊長は道すがら明瞭に、経緯を説明してくれる。
新兵の入団式の際、エルヴィン団長も私の「巨人の絵を描きたい」発言に興味を持たれたそうだった。
わざわざ声をかけてくれたハンジ分隊長は、その時のやり取りをエルヴィン団長にも話したのだと、ニコニコしながら教えてくれた。
「君の絵が完成したら、是非自分にも見せて欲しいと言っていたからね。きっと、首を長くして待っているハズだよ」
明るい声色で言ったハンジ分隊長に、私は嬉しい気持ちと同時に、不思議にも思った。
「でも…どうして私の絵を見る前から、そこまで期待してくださっていたんですか?
もしかしたら口だけで、とんでもなく下手くそだったかもしれないのに…」
「ははっ」と、ハンジ分隊長は笑った。
「君の言うとおりだ!だけど私は思ったんだな。入団式のあの場で、何の実力もない子があそこまで真っ直ぐな目で言えるのかなって。
十分な実力と自信があるからこそ、あんなにハッキリと自分の思いを言えたんじゃないのかい?
…私は、君の瞳に説得力を感じたんだ」
そう言われて、私は一瞬考えた。
確かに…幼い頃からたくさん絵を描いてきて、プロの画家である父や兄から指導も受けてきた。人と比べたら、多少の実力はあるのかもしれない。
だけど、自信があるかと言われると、ちょっと迷う。
私にはまだ「さぁ!これが私の絵だ!思う存分見てくれ給え!」などとは口が裂けても言えない。
だけどやっぱり、あの場であんなにキッパリと言い切ってしまったら、自信家であると受け止められても仕方ないのかもしれない。
……その点については後悔だな…。
「それにね、同期の子たちが話しているのを聞いたんだよ。すごく絵が上手いって」
「え…?私の同期がですか?」
「そうさ!みんな君の絵を見たがっていたよ」
そんなまさか、と私は思った。
だって、一度だって「絵を見せて欲しい」だなんて言われたことはない。
それに、絵も入っている対人格闘術のまとめノートだって貸したことはあるけれど、そんなにリアクションは大きくなかったはずだ…。