第2章 奪われたもの
家に向かって歩いていくうちに、エリクの表情も幾分戻ってきていた。途中、ポツポツと話した事で元気を取り戻してきたらしい。
また輝きを取り戻してきた弟の瞳を見て、私は返事を聞くのが怖いと思いながらも、ずっと気になっていたことを聞いてみることにした。
「エリクは、調査兵団に入りたいの?」
「え?」
くん、とつないでいた手が引かれて、私は振り返った。エリクが足を止めたのだ。
神妙な顔をして立ち尽くす弟の姿を見て、私は心臓がドクドクと騒ぎ始めるような気がした。
…その沈黙の意味は何?怖い、エリク何を言うつもりなの?…調査兵団に入ったら死んじゃうんだよ。頼むから、そんなこと言わないでよね?
「…うーん。まだ分かんないよ」
「…分かんないの?じゃあ、エリクは大人になったら何がしたいの?」
「…僕、姉さん達みたいに絵が上手く描けないから…画家にはなれないと思うんだ。
だから、自分に出来ることで、何か人の役に立つことがしたい。その方法が兵士になることなら、僕はそうしたいな」
「…調査兵団なの?」
「分かんないよ…。でも、僕は姉さんたちも街の人たちも守りたいから、駐屯兵団がいいかな」
「…そう」
つないでいた手を握り直して、私は歩き始めた。それにつられて弟も歩き始める。
それから家に着くまでは、お互いに一言もしゃべらずに黙ったままだった。