第10章 ニンギョ×ノ×ユクエ
許してしまうと他の人魚達に示しが付かないと言う女帝としての立ち位置。ぐちゃぐちゃに混ざり合う気持ちがチェリーを非情にさせる。
『さてと、飽きたから最後にしよう』
ぴゅーっと指笛を吹くと獰猛な生物を連想させる鰭が数匹、チェリーの周りに集まる。
「そいつ等は…さっきの鮫!?鮫は人魚も喰らうハズじゃ…」
『あれ?何か忘れてない?』
「………!」
『アタシは海を統べる女帝。この世の海に敵は居ない。アタシからすればこの子達は可愛いペットよ』
そう言って指を鳴らすと嵐が消え、暖かい陽射しが差し込む。ふわり、と風がマリブを空中に浮かせてゆっくりとチェリーが居る海上に連れて来る。
「よせ…!何をするつもりだ!?」
『アナタは右脚。アナタは左脚』
そして右腕、頭、胴体と一匹ずつに指差しながら確認させる。
『よーし、いい子ね。順番よ』
「やめろ…やめてくれっ…」
※※※
『はい、右脚』
「がぁああああっあ…」
『次は左脚』
「あ…ぐぁ…あああぁぁ…」
『右腕』
「あっ…あぁ、あっ」
『最後は同時に』
「あ?」
ぱくり、と綺麗に捕食される。鮫達の頭を軽く撫でると氷の防壁に触れて粉々にする。
-パリン…-
粉砕された欠片達が朝陽を浴びてキラキラと輝く。
「………、」
『飛行船乗り場まで送って行くわ』
誰かがチェリーの名前を呼ぼうとしたが声にならなかった。そんな悲しそうな笑顔を向けられて何が言えよう。
※※※
一隻の飛行船が嵐で潰れた飛行船乗り場の近くのビーチに降りてくる。何かあった時の為に予めクロロが依頼して頼んでおいたもの。誰に頼んだのかは誰にも分からない、がチェリーは小さく肩を竦める感じからして誰かは感付いている様子。
降りてくる飛行船を見ながら未だに海に浸かったままの尾先を動かそうとして留まる。
『姉君』
『大丈夫分かってる』
ウィーンと機械音を立てて階段が下ろされると飛行船に向かって歩き出す旅団。その背中を少し潤んだ瞳で見詰めていると不意に振り返る。
「チェリー、何をしている」
『クロロ…』
「いつまでそんな所に居るの?」
『シャルナーク…』
「風邪引いちゃうわよ」
『…パク』