第10章 ニンギョ×ノ×ユクエ
宝石の様な深紅の瞳がぎりぎりまで水気を帯びて下瞼に溜まる。
「何だよ、元に戻っても泣き虫か?」
『ウヴォー…』
「ほら…アレだ!帰ったら林檎食わせてやるから」
『ノブナガ…』
「林檎だけじゃなくてカフェオレも」
『コルトピ…』
「新作の子守りダンス踊ってやるぞ」
『ボノレノフ…』
溢れた雫は頬を滑り落ちる。
「今度は私も水族館行きたいな」
『…シズク』
「遊園地の方がいいんじゃないか?」
『フランクリン…』
「その前に僕と戦うのはどうかな♤」
『…ヒソカ』
「あたしが全力で阻止するよ」
『…マチ』
ポロポロと頬を伝う大粒の涙は穏やかな海面に小さな波紋を作る。
「おら、ボサっとしてんなよ」
『フィンクス…』
「ささと帰るよ」
『…フェイタン!』
すぅ…と尾鰭が素足になって砂浜を駆け出す。何も身に纏って無いのだが、まだ低い位置にある朝陽の逆境のお陰で大事な部分が見えないのは幸か不幸か。
一同「っ!?」
※※※
ガバッと勢い良く女子三名に抱き着く。
「「「チェリー?」」」
『有難う…本当に有難う………アタシ、皆と居れてとっても幸せだった!楽しかった!』
涙ぐんだその声は皆の胸を締め付ける。
『でも………ごめん。アタシ帰れない』
「そう…とても寂しいわね」
「やるべき事があるんでしょ?」
小さく頷く頭を三人の手が撫でる。
「行きな。妹達が…多くの人魚がチェリーを待ってる」
ずらりと水面から顔を出す人魚達が見える。
『皆に会えて良かった』
涙で濡れた精一杯の笑顔を皆に向けてから、くるりと背を向けると走りながら海に飛び込んで行く。
『ねぇ!皆盗賊なんだよね!?』
水平線に差し掛かろうとした所で水面から大きな声を張り上げる。
『今度会ったら盗んでみせてよ!』
一同「?」
『アタシの心!』
綺麗な弧を描きながら跳ねると水面に潜って行く人魚達。その幻想的な光景は多分一生忘れないだろう、と皆は思う。
そしてもしまた愛しい人魚に会えるなら…と各々は心に誓う。
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