第10章 ニンギョ×ノ×ユクエ
耐える様に嘲笑うと髪の毛をかき揚げる。
『貴方には無理。だってアタシ、卑怯で下劣で自分より弱い男なんて大っ嫌い』
「………え?卑怯?」
『だってアタシを使って皆を捕らえたんでしょ?醜いわ』
「………何、言っ…」
『アタシを捕らえようと多くの人魚達を手にかけ…彼等を傷付け殺そうとした。アタシの大切なモノを奪った罪の大きさを知れ』
ゴゴゴ…と空がなる。あんなにも晴れていた空は分厚い濃い灰色の雲に覆われ雷が走る。ポツポツと降り出した雨は目が開けられないくらいの豪雨。そして気を抜けば吹き飛ばされそうな強風。
※※※
「天気が…一瞬で………」
「君達も…出来るのか?」
『『うん』』
『コイツ等はまだ修行中だから直径1m範囲だけどね』
ふん、と鼻を鳴らすと横になりながら外側を見物する。
「限られた者だけって聞いてたけど修行とかで何とかなるのか?」
『いや、生まれ持った力。ウチ等一応、皇女なの。女帝に継ぐ地位』
一同「………え?」
『因みに姉君も元は皇女。北の海のお姫様。因みにウチは此処、南。一番ちっこいのが西でその隣のチビが東』
「チェリーさんは女帝でしょ?」
『うん。前女帝が姉君の膨大な力に期待して早々に退いちゃったわけ。だから姉君は北の海を中心に全ての人魚を統べてるから忙しい人なんだけどさ』
『人間との共存を実現させたくて陸に上がったのが3年くらい前かな?』
此方を見向きもせずにペラペラと家庭事情を話す人魚達を見ながら全員が困った様に顔を見合わせる。
『どんな経緯かは分からないけど貴方達がこの島に来てから姉君の匂いもしたし…でも何か嫌な感じもあったからコイツ等引っ張って来たら大正解みたいな?』
『たまにはやるよねー』
『さすが次女』
『煩いクソガキ』
一同「………」
※※※
「う…ぐ」
斬られた腕から滴る血は小さな池を作る。周りに転がる部下達のバラバラになった死体。強い雨風によって血の池が更に広がる。そんな光景を見ただけで気を失ってしまいそう。
『これだけ痛み付けても…気持ちはおさまらない』
あの場に捕えられていた衰弱したマーミィを思い出すだけで腹ワタが煮えくり返る。マーミィだけではない。沢山の人魚を殺めた目の前の男を許す訳にはいかない。