第7章 記憶の在り処
宏side
「話ってなんだ?」
「うーん。・・・」
屋上に着くと伊藤は背伸びをして空を眺めながら話した。
「そうだなー。まぁ、僕が言いたい事は『颯太先生から離れて欲しい』かな。」
「は?」
「僕さ、颯太先生の事本気で狙ってるんだ。だからさ、離れて欲しいんだよね。」
「だからって俺が・・・」
「颯太先生に迷惑かけてるの分からない?」
迷惑?
俺が?
「僕、見ちゃったんだ。颯太先生が君の事でぺこぺこ頭下げてたの。話聞こえてきたんだけど、君が授業を真面目に受けてないからだとか。それってさ、恋人として、どうなの?」
颯太が・・・そんな事・・・
「だから思ったんだよね。君は相応しくないよ。」
伊藤が目を光らせた。
能力者だったのか。
けど、どんな能力か分からない。
身体にはなんの変化もない。
「僕の能力、知りたい?」
俺は唾を飲み込んで頷いた。
「・・・僕は特定の人物を誘惑する事が出来るんだ。それも100パーセント。」
「誘惑?」
「そう。僕の事を好きになるんだ。だから、颯太先生なんて簡単に僕の事好きになるよ。その分、前の恋愛を忘れちゃうことになるけどそれは僕にとって好都合だよ。」
忘れるって・・・俺の事も、海堂のことも全部?
「僕と出会う前の事は消えないけどね。」
つまり、伊藤の能力は自分と出会ってからの記憶がリセットされるってことか?
「だから、僕には颯太先生と付き合える自信がある。能力を使ってだけどね。それでも僕は満足だよ。」
「・・・学校にバレたらどうするんだよ。お前も人のこと言えねぇんじゃねぇの?颯太が学校辞めることになるかもしれねぇだろ?」
「そんなのどうでもいいよ。僕を愛してくれれば。」
伊藤の答えには驚いた。
好きな人が悲しんでもそれでもいいなんて。
俺にはそこまで出来ない。
「で?どうする?このまま颯太先生に迷惑をかけ続けるのか?それとも僕に譲って幸せになってもらうのか?まぁ、どっちにしろ僕の恋人にするつもりでいるけどね。」
俺は颯太から手を引くことにした。
これ以上迷惑をかけられない。
悲しむ顔を見たくない。
颯太の笑顔が好きだから。