第1章 【Dtm】Feel
指先で軽く腕に触れる。
壊れてしまわないように、そっと下へ撫でるとやがて彼女の手の甲に行き着く。の様子を窺いながら徐々に触れる面積を増やして、指先から掌全体で触れていく。それを何度か繰り返した。
の柔らかな肌は次第に熱を持つ。近くにある顔は相変わらず赤く染まったままだ。瞳には僅かに恐怖の色が浮かんでいる。そのどれもが俺の心をさざめき立たせた。
もっと触れたい。
このまま抱き締めてしまいたいとすら思う。
だが、そんな事したらも、この関係も壊れてしまうから。触れていた手をするりと下ろした。
「……無理しない方がいい。今日はここまでにしよう」
はどこか安堵したように見えた。捲っていた袖を下ろしてシャツの中やスカートに纏わりついた綿をぱたぱたと追い出している。
思わず目を逸らした。の警戒心の無さが良いと峰田が言っていたのを思い出す。警戒心──確かにねぇな。
よくぼーっとしてるし、体育祭の日なんかチアリーダーの格好で彷徨いてた。男が嫌いって訳じゃねぇから男女問わず誰にでも笑いかける。触られたら駄目な癖に変な奴だと思う。
さすがに爆豪と峰田は怖いのか一歩距離を置いているように見えるが。
「轟くん、ありがとう!」
さっきまでの恐怖はどこへやら、はぱあっと顔を輝かせて飛び上がった。こんなふうに高ぶった感情を体現する様子は初めて見た。言わなくても顔に“嬉しい”って書いてある。
「こんな感じで良かったか」
「良かったよ。なんだかほかほかするー」
ほかほか。
ほかほかってなんだ……わからねぇ。
体温があがった、ということだろうか。返事を返さないでいるとは遠慮がちに俺の手を両手で包んだ。
の手は温かく、その熱が体の奥に染み渡って、満たされ、穏やかな気持ちになる。
そうか。これの事かと頷いた。も俺に触れられる時こんな感じだったのだろうか。恐怖よりもこの穏やかな気持ちが残ったのなら嬉しいと思う。